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カラパイアの『昆虫が痛みを感じない理由は寿命の短さにあった?(米研究)』って記事に突っ込む

まず始めに誤解のないよう言っておくと、僕はカラパイアさんのところの記事は毎度結構楽しく読ませてもらってる。自然科学やサブカル系の話題は読んでて飽きない。

 

ただし、この記事に関しては色々と「違う」と言わざるを得ない。

昆虫が痛みを感じない理由は寿命の短さにあった?(米研究) : カラパイア

 

まあ翻訳してるだけだからあかんのは元記事なんだけど、翻訳に関してもちょっと「ん?」と思うところもあったのでとりあえずカラパイア訳ベースで指摘していく。

 

感情的あるいは肉体的な痛みは我々の行動を変化させる決定的な要因となる。痛みを体験することで、その記憶が忌避すべき刺激となって脳に残る。この脳の反応により、未来に経験するであろう痛みを避けるように我々の行動をかえてくれる。

 まあこれは正しい。次。

 

しかし、昆虫はどうだろうか?昆虫には痛みを感じる中枢神経である”痛覚”がない。昆虫たちには痛覚がないので痛みを体感することはないのである。

 痛みを感じる中枢神経である"痛覚"という表現がまず疑問。例えば「音を感じる中枢神経である"聴覚"」なんて言い方をするか?

痛みという名の外部刺激を受容するのは中枢神経ではない。感覚神経である。おそらくこの文章が言いたいのは

「昆虫には痛覚刺激を受容するニューロンがない。痛覚受容ニューロンがないから痛みを体感することはない。」

ということだろう。なぜないと断言できるのかよく分からないが、外骨格だから脊椎動物の皮膚のように色々な刺激は受容できなかろうということなのだろうか。昆虫も体表の感覚器で化学刺激や機械刺激は感知できるんですがね。

 

痛みとは高等動物のような長い寿命を持つ生き物が、その生き物の生を全うさせることに一役買っている。いやな経験から学習する能力が、未来を脅かす出来事を避けるチャンスを与えてくれるのだ。

 まあうん。

 

ところが昆虫類には痛覚がないため、少なくとも我々が感じるような痛みを感じることはない。なぜなら痛みを記録する必要がないくらい、昆虫のライフサイクルは短く、寿命は直ぐに尽きる。

 ライフサイクルが短いと痛みを記録する必要がないという論理が分からない。

 

米国カリフォルニア州、スタンフォード大学の研究者らがこの説を実証した。毛虫やバッタは幼虫の時、生きたまま飲み込まれてもその日々の生活を改める必要はない。昆虫たちは体が傷ついていても泣いたり喚いたりせず、いつもどおりの働きをやめないのである。

 これが翻訳でおかしいと思ったところ。「スタンフォードの誰の仕事だろう」と思って元記事を読んでもこの節のところにはスタンフォード大の研究者がこれをやったなんて書いてないじゃないですか。だからこの主張についても「へぇ、そうなの」と話半分に流すしかできない。強いて言うならバッタはともかく毛虫が泣いたり喚いたりしたら俺はビビる。

 

昆虫のほとんどは、数日で寿命を終える。

 「昆虫のほとんど」とは。ショウジョウバエでも成虫になってから一ヶ月生きますが。セミでも幼虫期で数年過ごしますが。この後の主張からして、ここで言う寿命ってのは「生まれてから生き延びて生き延びて生き延びた末死ぬまでの期間」を指してるのであって、「生まれてから捕食されるまでの期間」ではないはずですよね。

 

彼らはどのみちすぐに死んでしまうので痛みを記憶し回避する必要がないのだ。昆虫たちの活動はあらかじめ組み込まれているロボットのようなものなので、彼らが行動や活動を省みて学ぶことなど、無に等しいのである。

 もうね、盛大にダウト。痛みを記憶し回避する必要がない?ハァ?(摩邪風に

記憶研究の歴史を是非一度学んでみてほしい。アメフラシの反射行動の際に見られるシナプス結合の可塑性の解明に始まり、今では線虫、ショウジョウバエ、ミツバチ、バッタ、ゼブラフィッシュ、マウス、サル、ヒトともう様々なモデル生物で記憶の研究は行われているわけですよ。

昆虫は間違いなく記憶します。これは数多の実験で実証されているので疑問に思うなら「insect memory」とかでぐぐってみて欲しい。

そんで、そういった記憶研究の際によく用いられる実験手法として「恐怖条件付け」「忌避条件付け」と呼ばれるものがある。

これはいわゆるパブロフの犬と同じで、例えばある色やある臭いを提示するのと同時に、その被験体に電気ショックを与えるというもの。

すると、次に電気ショックを与えずともその色、臭いを提示するとその個体は動きを止めたり、そこから逃げる行動を取る。

そして俺の知る限り、臭いを電気ショックを連合させる「忌避条件付け」はハエで有効である、すなわちハエは「嫌な感じがする時に来る臭い」を学習してそれを回避することができる。だから上に引用した主張なんてちゃんちゃらおかしいわけ。

 

電気ショックが「痛覚」として受容されているかは分からないけど、これまでの実験でハエは電気ショックを嫌がって、しかも学習することが明らかになってる。そういった経緯を無視してこういうこと書いちゃうのはどうかと思う、ということをグダグダと言いたかった記事でした。終わり。

 

あ、ハエの忌避記憶については「drosophila aversive memory」とかで検索するとたくさん論文が引っかかると思います(英語ですが)。

日本語だと最近の研究ではこの辺とかどうでしょうか。お腹を空かせると記憶力が上がるという研究です。

共同発表:空腹状態になると記憶力があがる仕組みを発見