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【ネタバレ注意】劇場版サイコパスを見ての感想

1月9日公開の『劇場版PSYCHO-PASS サイコパス』を早速観てきた。もう色々語りたくてしょうがないと思いここに書き殴らんとするので、ネタバレを読みたくない人は今すぐこのページから離れるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやー朱ちゃん相変わらず脱いでも色っぽくねえなとか狡噛さん人外でしょとか宜野座さん前髪切った代わりに後ろ髪伸ばしててもはやキャラ立ちよく分かんねえよとかED曲でテンション最高に上がったこととかは置いといて。

 

 サイコパスは1期からそうなんだけど、この作品は社会の秩序の在り方について視聴者に語りかけている。

1期では絶対的正義に見えるシビュラシステムの言いなりに生活する人々とそれが幸福かという疑問、そしてシビュラの例外の取り込み方のネタばらし。

2期ではシビュラが今まで目を逸らしていた、集団としてのサイコパス係数の計測を行わざるを得ない状況になったことでシビュラが現在万能ではなく、今なお発展途上であることが明らかになった。

 

 そして今回の劇場版。なんと日本国外はことごとく(少なくとも中国~中東アジアにかけては)紛争状態となっており、治安が崩壊していた。劇中は2116年7月ということだったから今から101年後の世界ということだけど、どのような経緯で各国の政権が崩壊したかは定かではない。つまり、シビュラの威光の外では「万人の万人に対する闘争」が起きていたのだ。そして、シビュラはその「万人の万人に対する闘争」状態を「最大多数の最大幸福」で啓蒙すべく、紛争地帯のひとつであるSEAUn(劇中ではあくまでこの表記だけど、まあ西安あたりのことなんだろう)の軍閥のひとつと協力してシビュラ特区シャンバラフロートを設置した。

 で、狡噛さんは反政権派のなかば実質的な指導者となって国の民主化を推し進める役割を担っていて、ひょんなことからそれが日本の公安局にバレたもんだから朱ちゃんが単身でシャンバラフロートに出向いてみたら内政腐っててなんやねんこれ、シビュラシステム(出張版)に不正改造かけられてて見逃されてたけど実は内政軍全員(トップの議長以外)犯罪係数オーバー300リーサルエリミネーター状態。なんやかんやで狡噛さんと朱ちゃんが内政軍に取り囲まれて殺されるピンチ!ってところで間一髪で朱ちゃんの発したSOSが功を奏して日本からの援軍とシビュラの正常作動によって内政軍は一掃される。議長は映画見てる途中に誰しもが「(あっ察し)」だったとは思うけどまあ首がすげ替えられて中身はシビュラになってましたとさ。

 そんな内政軍を利用してまでわざわざ日本国外にシビュラシステムを拡張する理由は?という朱、あるいは視聴者の問いに対してシビュラは「最大多数の最大幸福」の「最大」をどこまで適用するか、ということだと返答している。ここから分かるのは、シビュラは日本という一国の秩序を守る頭になることを目的としているのではなく、ルソーの唱えた「一般意思」をあまねく世界に実現することを目的としているのではないかと思う。もっとも、2期で鹿矛囲桐斗のテロ程度で処理ヒーヒー言ってた癖にそんな演算能力あんのかよって突っ込みは入るんだけど、世界中から免罪体質者を見つけて組み込めばなんとかなるっしょという算段なのかもしれない。

 「一般意思」ってなんやねん、という方はwikipediaを読んで欲しいのだけど(僕もその程度の知識しか持ってない)、読んで頂けると「ああ、これまんまシビュラじゃん」ということは分かって頂けるかと思う。要するに一般意思の目指す「公の利益」を「最大多数の最大幸福」とし、「公」の範囲を人類全体を覆うまでにいずれは拡張することこそがシビュラの存在意義であると僕は解釈した。

 ここまでの文中で「」で括ったいくつかの単語からも分かるように、この作品は18世紀あたりに唱えられたいくつかの社会哲学論、特に社会契約説をベースにしてそこに未来のサイバーなテクノロジーがあったらそんな社会が実現できるんじゃない?実現できたらどうなる?ということを一貫して描いてる。で、こんなのおかしいと思いながらもその秩序を是とし、その中でシビュラを監視する役回り朱ちゃんで、こんなのおかしいと思って野に下り、外側からシビュラに異を唱える役回りが狡噛さんということだ。映画では最終的には一度シャンバラフロートのトップ(シビュラ)が辞職をし、総選挙によって再度シビュラが選ばれることで皮肉にも狡噛さんの望んだ民主化は、民衆がシビュラを選ぶという形で遂げられた。結果的にはこれからSEAUnにはシビュラによる治安がもたらされることになるのだろうけど、朱ちゃんはやはりその方法(腐った内政軍と手を組んで強行的に内政干渉したこと)を犯罪行為と呼び、「歴史には敬意を払いなさい」と順序を踏めとシビュラに対して警告した。もしかしたら、1期第1話で宜野座が「愚か者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶという。君が愚か者でないことを祈ろう」と朱に諭したのを朱は印象深く思いそれを心に刻んでるのかもしれないなあなどと上の台詞を聞いた時に感じたりした。朱ちゃんは賢者なのだ。そういうことでこの文を締めたい。